遺伝子診断の意味
「遺伝子診断」は、染色体の中の遺伝子情報を分析し「何かの病気になりやすい要因」や薬のアレルギー反応、さらに「高血圧になりやすい」「脱毛症になりやすい」などの体質的傾向を予見することができるといわれる診断方法です。別名遺伝子検査、DNA検査などとも呼ばれます。
ただし、医学的意味における狭義の遺伝子診断は、検査前後のカウンセリングなど、遺伝子検査を含む一連の診療行為全体を意味しています。このため狭義の遺伝子診断は医療機関で医師の手によって行われるものに限られ、その目的は健康状態や疾患の診断・治療になります。
近年では、唾液からでも手軽に遺伝子の解析できるようになっています。そこで、「遺伝子の中の自分自身の特徴を把握し、疾患発症リスクを自覚したり、生活環境・生活習慣を改善することや、健康や美容に役立てたりする」ことを目的にした民間企業による遺伝子検査サービスが普及しています。これも広義の意味で「遺伝子診断」と呼ばれる場合があります。
体質から病気のリスクまでを診断
人間の細胞にはおよそ2万種類の遺伝子があります。その中で、どの遺伝子上に異常があるかどうかによって、将来発症する確率の高い疾病が予測できます。また、特定の疾病の疑いがあるとき、その疾病であることを確定するのにも役立ちます。このため、疾病の診断のために行われる狭義の遺伝子診断では症状に応じて特定の遺伝子のみの解析を行います。
ただし、特定の疾病の疑いが特に濃い患者であっても、遺伝子診断の結果「遺伝子上に以上は見つからなかった」という可能性は少なくありません。慶應義塾大学医学部臨床遺伝学センターによると、遺伝子診断により遺伝子に異常が見つかる可能性は70~80%といいます。
加えて、民間の遺伝子検査サービスなら、「お酒の強さ」「太りやすさ」などの体質的傾向から「高血圧」「動脈硬化」「糖尿病」などのリスク、乳がんなど「がんになりやすいリスク」などが詳細に分析できるとうたっているサービスもあります。
遺伝子診断に対する倫理的問題
狭義の遺伝子診断とは異なり、このような遺伝子検査サービスの信頼性は明らかではありません。仮に高い精度で遺伝子検査ができたとしても、その人が将来どんな疾病にかかるかを完全に予見できるものではないといえます。
また、人間の健康には生活環境や生活習慣が大きく影響し、同じ遺伝子を持つ一卵性双生児でも生活の違いによって体格や病気のかかりやすさなどが異なることが分かっています。
日本医師会は遺伝子診断に対して「個人ベースでのゲノム情報は究極の個人情報と言われており、その情報への対応ということも近い将来大きな社会的な問題となるであろう」と述べています。また、同会では2011年に「医療に関する遺伝学的検査・診断についてのガイドライン」を発表しています。