転職での薬剤師の売り手市場は終了か?今後必要とされるモデル像とは

登録販売者の男女

薬剤師の転職は昔から売り手市場と言われてきました。資格を持っていることで企業から内定を獲得しやすくなるため、薬剤師の資格は強いというのが一般的な認識です。

薬剤師は売り手市場であることにより、転職しやすい職業であるともされてきました。

実際、資格を持っていれば働き口には困らないほどだったのですが、近年では薬剤師の需要に変化が見えつつあるようです。

そこで今回は2019年現在の転職市場における薬剤師の需要や、今後の動向について解説していきたいと思います。

薬剤師の売り手市場は終了!?転職業界ではどのような兆候が出ているのか

薬剤師の転職について今後薬剤師の将来性が低くなるという噂が散見されます。

たとえばAIの発達により薬剤師の仕事が無くなってしまう。あるいは今後薬剤師求人の倍率が低くなるといった説が挙げられます。

よって薬剤師は今後将来性が無くなるという説が飛び出してきています。

このような話を聞くと、現役で働いている方だけでなく、将来薬剤師を目指している方も不安になってしまいますよね。

それではまず現状(2019年時点)の薬剤師の転職市場は、どのようになっているのかを見てみることにしましょう。

2019年時点での転職業界における薬剤師の需要は相変わらず

現状における薬剤師の求人倍率は10倍以上となっています。そもそも医療系の仕事は資格を有していなければ就くことができないものがほとんどです。

そのため一般職と比べて倍率は非常に高く、薬剤師をはじめ他にも医師や歯科医師などは、基本的に10倍位上の倍率となります。

看護師や介護士の求人倍率は3倍となっていますが、薬剤師の求人倍率見るとそれらを遥かに超えていることから、業界における薬剤師の需要の高さが伺えますね。

このように2019年時点でも、薬剤師は非常に高い需要を有しているので、転職市場においてもすぐさま将来性が無くなるという心配は無いと言えます。

需要が低くなる兆候として転職業界での求人数には影響が出ている?

薬剤師求人に特化した転職サイトは、まさに薬剤師が売り手市場であることが前提として成り立っているサービスですよね。

薬剤師の将来性に陰りが見えているとすれば、もちろん転職サイトの求人数にも変化が生まれます。

もし需要が低くなっているのだとしたら、転職サイトを利用しても、エージェントに仕事を紹介してもらえないという事態が発生すると思います。

しかし現在のところ、サイトに登録しても仕事を紹介してもらえない、という類の話はほとんど見かけません。

転職サイトでは薬剤師の全体数に対して、半分以上の求人が確保されている

薬剤師の転職で有名な大手サイトの総求人数を見てみると、以下のようになります。

総求人数
マイナビ薬剤師 54,413件
薬キャリ 53,755件
ファルマスタッフ 55,801件

※上記の件数は2019年5月時点のものです。

大手サイトはいずれも5万件以上の求人を掲載しており、上記の3社を合わせると約16万件ほどの求人数となります。

現在薬剤師の数は約30万人ほどと言われており、それに対して薬剤師の転職業界では半分ほどの求人が存在すると見ることができます。

さらにこれらの大手サイト以外にも中小規模の転職サイトが存在しますので、それらの求人も合わせて考えると、より多くの求人数が存在していると考えることもできます。

とはいえ同じ求人が被っていることもあるので、上記の件数はあくまで暫定となります。

それでも全体の薬剤師の人数に対して、半分以上の求人数が期待できる現状では、求人が全く足りないという事態に陥る兆しは見えていないと言えます。

薬剤師の数が飽和して転職では売り手市場と言えなくなる?

薬剤師の現状は良くても、将来はどうなるかわからないと不安になる方もいらっしゃると思います。

転職における薬剤師の将来性について、よく言われているのが薬剤師の飽和です。

近年では薬剤師の合格率が上がっている傾向にあり、このまま薬剤師が増え続ければ、転職においても競争率が高まり、市場での需要も下がってしまうというものです。

このまま薬剤師が増え続けることで、薬剤師の将来性は危うくなるというのは本当なのでしょうか?

毎年輩出される薬剤師の数は年々着実に増加している

薬剤師の数が年々増えていっていることは確かです。特に2000年代に入ってからというもの、薬剤師の数は著しく伸びていると言えます。

2018年実施の国家試験では公立大学の新卒合格率が95.18%、私立大学の新卒合格率が84.11%となっていますので、今後も着実に薬剤師の数は増えていくと予想できます。

しかし薬剤師の数が増えていくことで飽和状態になるという説は、あまり現実的ではないと思われます。

薬剤師の数が増えても現時点では飽和状態になることはない

2018年に薬剤師資格を取得するための、国家試験に臨んだ受験者数は約13,000人であるのに対して、70歳前後の薬剤師の数は約1万人ほど。

新卒で1万人程度の薬剤師が輩出されても、同時に引退する年齢に達している薬剤師が同人数程度いるのであれば、薬剤師の総数が急激に増えることはありえないと言えるでしょう。

もし薬剤師の数が飽和状態になるのであれば、現合格者の倍以上の新卒を輩出する必要があります。

さらに薬剤師となるには6年の間、薬学部に在籍する必要があるほか、高額な学費を支払うことが前提となります。

これらの条件が前提となっていることもあり、現状以降、受験者数が急激に増えるという事態は考えにくいと言えます。

全国的に医薬品を扱う店舗が増えていることで薬剤師不足が深刻に

転職業界において薬剤師の需要が下がるという説に頷けない理由として、もう一つ、薬剤師の職場が増えているという点が挙げられます。

現在、調剤薬局とドラッグストアの需要は高まり続けており、全国における店舗数も年々増えている傾向にあります。

増え続ける店舗数に対して、現役の薬剤師の数が追いついていない状況となっており、薬剤師の人手不足が深刻になっているのです。

実際にスタッフ数に余裕がある職場よりも、いかにより多くの薬剤師を確保するかに苦心している職場の方が多いと言えます。

AIやIT技術によって薬剤師の転職は売り手市場では無くなる可能性は?

AIが導入されることにより、薬剤師の仕事は無くなるという説もありますね。人間の薬剤師に任せるよりも、AIに調剤させることによって作業スピードがアップするほか、調剤での事故も未然に防げるとされています。

AIによって薬剤師の売り手市場が終わってしまう可能性はあるのでしょうか。

AIやIT技術の導入による業務の効率化は始まっている!

確かに一部の業務においてはAIやIT技術を導入することによって、人間の薬剤師が抱えるデメリットを解消できるという利点もあります。

たとえば薬歴の管理においては以下のようなシステムを導入することで、業務をより効率化することが可能になります。

  • 電子薬歴システム
  • 対話式電子薬歴管理システム
  • 薬局情報共有プログラム
  • 電子処方箋
  • オンライン診療

電子処方箋に関してはすでに2018年から導入が開始されています。処方箋を電子化することによって、オンライン上で管理することができるようになり、医療機関同士で素早い情報のやり取りが可能になりました。

何よりも紙の処方箋では、ここまでスムーズな情報共有・情報管理はできないため、電子処方箋を導入することにより、薬剤師の仕事の負担も間違いなく減っていると言えます。

法律により薬剤師無しで患者さんに薬を提供するのは不可能

とはいえ業務におけるIT技術・AIの導入が、すぐさま薬剤師の仕事を奪ってしまうとは考えにくいと言えるでしょう。

まず患者さんに医薬品を提供する場合、法律により対面指導が必須となっています。薬剤師を通さず医薬品を提供する・手に入れることは法律違反となります。

このように患者さんに医薬品を提供する上で、原則となる法律が存在することだけでなく、AIが各患者さんに合わせたケアをすること自体が現時点では難しい状況です。

そのため技術による業務の効率化が進んでも、薬剤師の仕事が無くなってしまうことはやはり考えにくいでしょう。

転職における薬剤師の売り手市場も永遠ではない。これから先求められる薬剤師とは?

薬剤師の将来性が危ぶまれるような噂が、まことしやかに囁かれているのは事実です。

しかし上記で述べてきた内容から、

  • 薬剤師の数が増えても薬剤師の職場が増え続けているので、飽和状態になることはない
  • 現在のAIやIT技術を導入しても、対面指導でなければ法律違反になるほか、患者さんに合わせて満足のいくケアを行うのは難しい

と言えます。よって現段階では転職においても、薬剤師の売り手市場に揺らぎが出ることは無いと思われます。

技術は進歩しているので薬剤師の将来性が確実とは言えない

しかしそれはあくまで現時点での話であって、現状における薬剤師の将来性が永遠に続くとは限りません。

たとえばAIやIT技術の導入を行うため、対面指導が必須という法律を改正する可能性だってあります。

技術は日々進歩しているので、あと10年後には状況がどうなっているのか誰にもわからないのです。

AIが導入されなくても薬剤師に依存しない改善対策は生まれ続ける!?

現在ドラッグストアや調剤薬局の店舗が増えることによって、薬剤師の人手不足が深刻化しています。

そのような状況を改善させる一環として、薬剤師の資格が無くても第2類・第3類医薬品を販売できる「登録販売者」という資格が誕生しています。

法律によってたとえ進化したAIに仕事を奪われる可能性が低くても、「登録販売者」のような人手不足を改善させるための代案が、これからも生まれることには変わらないのです。

よって現在の薬剤師も時代の流れに付いていけるよう、日々努力必要があると言えます。

薬剤師は知識量の豊富さがより重視される傾向になる?

薬剤師の転職は売り手市場となっています。ただ、これからの転職では資格を持っていれば良い、という単純なものでは無くなる可能性はあるでしょう。

そうなれば処方箋通りに調剤できるだけでなく、認定薬剤師などさらに専門性に優れた薬剤師が求められる時代になるかもしれません。

また転職が売り手市場になっていると言っても、転職回数が多すぎると採用で不利になってしまうこともあります。

転職しやすいからこそ、すぐに転職しない薬剤師であることが、より求められる傾向になる可能性はあると思います。

逆に言えば人手不足だからこそ、長く経験を積み、専門知識に造詣が深い薬剤師の需要が高まっていると言った方が良いかもしれません。

これからの薬剤師は知識量がより求められる可能性がありますので、学ぶことをやめない姿勢を保つことが、市場において強い薬剤師でいられるカギとなるでしょう。